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東京高等裁判所 平成10年(行コ)119号 判決 2000年12月14日

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は、甲事件及び乙事件を通じてこれを二分し、その一を両事件第一審被告の負担とし、その余を乙事件第一審原告らの負担とし、当審における補助参加によって生じた費用は各補助参加人の負担とする。

事実及び理由

(以下、当事者及び各事項の略称については、当事者目録記載のほか、原判決の表記に従う。ただし、JR貨物及びJR北海道を合わせて「被控訴人ら」という。)

第一控訴の趣旨

一  甲事件(中労委)

1  原判決のうち中労委の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  乙事件(国労、国労札幌地本、国労青函地本、国労旭川地本及び国労釧路地本)

1  原判決主文第二項を取り消す。

2  中労委が同庁平成元年(不再)第四号及び第五号事件(初審・北海道地労委昭和六二年(不)第六号事件)について、平成五年一二月一五日付けでした中労委命令のうち、a、b、c、d、e、f、g、h、i、j、k、lに関する部分を除いて、これを取り消す。

3  訴訟費用は、第一、二審とも中労委の負担とする。

第二事案の概要

本件は、参加人らが、国鉄の分割・民営化に伴って設立された被控訴人らの職員採用に際し、国労組合員が採用されなかったのは、所属組合による差別の不当労働行為であるなどとして、道労委に対してその救済を申し立てたところ、道労委は、国鉄に不当労働行為があったことを認め、その責任を被控訴人らに帰属させたうえ、右不採用者全員につき被控訴人ら設立時からの採用取扱い等を命じる道労委命令(原判決別紙一記載のとおり)を発し、これに対して被控訴人らが、中労委に対してその再審査を申し立てたところ、中労委において、一部を除く国労組合員について不当労働行為の成立を認めたうえ、同人らについての職員採用に関する選考のやり直しなどを命じる中労委命令(原判決別紙二記載のとおり)を発したことから、被控訴人ら及び参加人らの双方が、中労委命令の取消しを求めるという事案である。原審が、被控訴人らによる不当労働行為の成立及びその責任の帰属を否定して中労委命令を全部取り消し、参加人らの請求については訴えの利益を欠くとして却下したことから、このうち救済命令取消部分について中労委が、訴え却下部分について参加人らが、それぞれこれを不服として提起したのが本件控訴である。

第三争点

本件の主要な争点は、国鉄が行った承継法人の職員の採用候補者の選定及び名簿の作成過程で不当労働行為に該当する行為があった場合、被控訴人らの設立委員、ひいては被控訴人らが労組法七条の「使用者」としてその責任を負うか否か(原判決記載の争点1)、これが肯定された場合、国鉄の行った採用候補者の選定及び名簿の作成が労組法七条一号の不利益取扱い及び三号の支配介入に該当するといえるか、仮に、該当するとすれば救済対象者の範囲をどのように解するか(同争点2)、また、参加人らにおいて争っている中労委命令の救済方法の適否(同争点3)である。争点1に関連して、当審において参加人らは新たに、(一)設立委員の審査・是正義務違反による不当労働行為の成立と、(二)黄犬契約による不当労働行為の成立を主張した。

第四事実経過等及び当事者の主張の要旨

国鉄改革に伴う承継法人の設立とその職員採用に至る経過等の概要並びに前記主要な争点のうち、最大の争点である争点1についての当事者の主張の要旨及び当審における参加人らの新たな主張は以下のとおりである。また、各当事者の概要、国鉄における労働組合の結成状況、国鉄改革の経緯、本件四月採用に関する国労と国鉄並びに設立委員との団体交渉、清算事業団の責務及び職員の処遇等、国鉄における労使関係等、参加人らによる不当労働行為救済申立て並びに本件訴訟提起に至る経緯については、いずれも原判決の「第一 争いのない事実等」記載のとおりであり、当事者の主張の詳細については、参加人らの当審における新たな主張のほかは、原判決の「第三 当事者の主張」記載のとおりであるから、ここに引用する(ただし、原判決九〇頁四行目を「(二) 設立委員の権限と責任」と訂正する。)。

以下、国鉄改革に伴う承継法人の設立とその職員採用に至る経過等の概要に関する各事実については、特に証拠を摘示しない限り、各当事者間に争いのない事実、各当事者が明らかに争わないと認められる事実、公知の事実又は当裁判所に顕著な事実に当たるものである。

一  国鉄改革に伴う承継法人の設立とその職員採用に至る経過等

1  政府全額出資の公法上の法人であった国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以後、経営悪化の一途を辿り、昭和五五年度までの間にも再三にわたり経営再建計画が実施されたが、昭和五七年度末には約一八兆円もの累積債務とともに膨大な余剰人員も抱えているという危機的状況にあったことから、第二次臨時行政調査会が昭和五七年七月三〇日に政府に提出した「行政改革に関する第三次答申―基本答申―」や、日本国有鉄道の経営する事業の再建の推進に関する臨時措置法(昭和五八年法律第五○号)に基づき設置された監理委員会が昭和五八年八月二日及び同月一〇日に政府に提出した各緊急提言において、それぞれ国鉄の分割・民営化を支柱とした国鉄経営の効率化による再建に向けての基本事項が示され、昭和六〇年七月二六日に監理委員会が政府に対し提出した「国鉄改革に関する意見―鉄道の未来を拓くために―」と題する最終答申では、①国鉄事業の分割・民営化、②新事業体発足時の適正要員規模、③余剰人員は再就職を必要とする職員として国鉄の清算法人的な組織に所属させ三年間で転職させるなどの国鉄改革に対する具体的方法が示された。

2  昭和六一年五月二一日に「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために昭和六十一年度において緊急に講ずべき特別措置に関する法律」が成立し、同月三〇日に公布、施行され、同年一一月二八日には、(一)改革法、(二)会社法、(三) 新幹線鉄道保有機構法、(四)清算事業団法、(五)再就職促進法、(六)鉄道事業法、(七)改革法等施行法、(八)「地方税法及び国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法律の一部を改正する法律」の、いわゆる国鉄改革関連八法が成立し、それぞれ同年一二月四日、公布、施行された。

右立法による国鉄改革の骨子は、①国鉄の旅客鉄道事業を分割し、北海道、東日本、東海、西日本、四国及び九州の各旅客会社を設立してこれらに引き継がせ(改革法六条)、②新幹線鉄道にかかる旅客鉄道事業については、新幹線鉄道保有機構を設立して、施設の一括保有及び貸付けに関する業務を行わせ(同法七条)、③国鉄の貨物鉄道事業を旅客鉄道事業から分離し、貨物会社を設立してこれに引き継がせ(同法八条)、④電気通信、情報の処理及び試験研究に関する業務については、運輸大臣が指定する法人にこれらを引き継がせ(同法一一条一項)、⑤鉄道会社の設立に際して発行する株式の総数は国鉄が引き受け(会社法附則五条)、⑥承継法人に事業等を引き継いだ後の国鉄を清算事業団に移行させる(改革法一五条、清算事業団法附則二条)というものであった。

3  承継法人の職員採用手続については、以下のとおり改革法二三条に規定された。

(一) 承継法人の設立委員(当該承継法人が改革法一一条一項により運輸大臣の指定する法人である場合には当該承継法人。以下「設立委員等」という。)は、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び職員の採用の基準を提示して、職員の募集を行う(一項)。

(二) 国鉄は、前項によりその職員に対し労働条件及び採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思を確認し、承継法人別に、その職員となる意思を表示した者の中から当該承継法人に係る採用の基準に従い、その職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出する(二項)。

(三) 前項の名簿に記載された国鉄職員のうち、設立委員等から採用する旨の通知を受けた者であって、国鉄法等の廃止に関する規定の施行の際(昭和六二年四月一日)、現に国鉄職員であるものは、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される(三項)。

(四) 一項において提示する労働条件の内容となるべき事項及びその提示の方法、二項による職員の意思の確認の方法、その他、前三項の実施に関し必要な事項は、運輸省令で定める(四項)。

(五) 承継法人の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされた行為とする(五項)。

(六) 三項により国鉄職員が承継法人の職員となる場合には、その者に対しては、国家公務員等退職手当法に基づく退職手当は支給しない(六項)。

(七) 承継法人は、前項の適用を受けた承継法人の職員の退職に際し、退職手当を支給しようとするときは、その者の国鉄職員としての引き続いた在職期間を当該承継法人の職員としての在職期間とみなして取り扱う(七項)。

右の結果として、承継法人に採用されない国鉄職員は、昭和六二年四月一日以降清算事業団の職員となり、再就職促進法に基づき、再就職が図られることとされたが、同法が昭和六五年(平成二年)四月一日限りで失効する(同法附則二条)ことから、三年以内に再就職するものとされていた。

4  なお、運輸大臣は、昭和六一年一一月二五日、国鉄改革関連八法案を審議する参議院特別委員会における承継法人の職員採用事務に関する設立委員と国鉄との関係について、「国鉄は設立委員の補助者の立場で設立委員の定める採用基準に従い選定する。」「設立委員の示す採用基準に従って承継法人の職員の具体的な選定作業を行う国鉄当局の立場は、設立委員等の採用事務を補助するもので、法律上は準委任に近いものであるから、どちらかといえば代行と考えるべきではないか。」と答弁し、政府委員からも同旨の答弁が繰り返し行われた。

5  昭和六一年一二月四日、会社法附則二条一項に基づき、運輸大臣による鉄道会社の共通設立委員一六名及び各鉄道会社ごとに設立委員二ないし五名の任命を経て、同月一一日、鉄道会社合同の第一回設立委員会が開催され、鉄道会社の共通の採用基準が以下のとおり定められた。

(一) 昭和六一年度末において年齢満五五歳未満であること(医師を除く。)

(二) 職務遂行に支障のない健康状態であること、なお、心身の故障により長期にわたって休養中の職員については、回復の見込みがあり、長期的にみて職務遂行に支障がないと判断される健康状態であること

(三) 国鉄在職中の勤務の状況からみて、鉄道会社の業務にふさわしい者であること、なお、勤務の状況については、職務に対する知識技能及び適性、日常の勤務に関する実績等を国鉄における既存の資料に基づき、総合的かつ公正に判断すること

(四) 退職前提の休職(国鉄就業規則六二条三号ア)を発令されていないこと

(五) 退職を希望する職員である旨の認定(六一年緊急措置法四条一項)を受けていないこと

(六) 国鉄において再就職の斡旋を受け、再就職先から昭和六五年(平成二年)度当初までの間に採用を予定する旨の通知を受けていないことさらに、JR北海道については、国鉄本社及び本社附属機関に所属する職員並びに全国的な運用を行っている職員からの採用のほか、JR北海道が事業を運営する地域内の業務を担当する地方機関に所属する職員からの採用を優先的に考慮すること、JR貨物については、広域異動の募集に応じて既に転勤した職員からの採用は、特段の配慮をすることとされていた。

6  運輸大臣は、昭和六一年一二月一六日、改革法一九条一項に基づき、閣議決定を経て基本計画を定め、国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数を二一万五〇〇〇名、うちJR北海道の職員数を一万三〇〇〇名、JR貨物の職員数を一万二五〇〇名と決定した。

7  昭和六一年一二月一九日、鉄道会社合同の第二回設立委員会が開催され、鉄道会社における職員の就業場所、従事すべき業務など労働条件の細部が決定され、採用基準とともに国鉄に提示された。

8  国鉄は、昭和六一年一二月二四日、採用基準に該当しないことが明白な者を除く職員約二三万〇四〇〇名に対し、承継法人の労働条件と採用基準を記載した書面及び承継法人の職員となる意思を表明する意思確認書の用紙を配付し、昭和六二年一月七日正午までに提出するよう示達した。そして、同月七日までに意思確認書を提出した国鉄職員は二二万七六〇〇名であり、そのうち承継法人への採用希望者数は二一万九三四〇名、就職申込数(第二希望から第五希望の複数の承継法人名を記載しているものを含めた総数)は、延べ五二万五七二〇名であり、基本計画上の要員に対する就職申込総数は、JR北海道においては一万三〇〇〇名に対し二万三七一〇名、JR貨物においては一万二五〇〇名に対し九万四四〇〇名であった(乙第二四号証の二及び三、第三三号証の一、第六四七号証)。

9  国鉄は、設立委員等の前記採用基準及びこれに基づき国鉄として設定した「昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は、明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として、採用候補者名簿に登載しない」などの適用基準に従って、承継法人ごとの採用候補者の選定及び名簿を作成し、昭和六二年二月七日、右の名簿に各人ごとの職員管理調書の内容を要約した資料を添えて、設立委員等に提出した。これによると、JR北海道における採用候補者名簿への記載者数は基本計画上の要員数と同数であり、JR貨物における採用候補者名簿への記載者数は一万二二八九名であって、基本計画上の要員数に対して二一一名減じたものであった(乙第三三号証の一ないし三、第六四七号証)が、本件救済申立対象者は全員、右の名簿に記載されなかった。

10  昭和六二年二月一二日、鉄道会社合同の第三回設立委員会が開催され、採用候補者名簿に記載された者全員を当該承継法人の職員に採用することを決定した(本件四月採用に対応する。)。そして、設立委員等は、同月一六日以降、右採用予定者に対し、国鉄を通じて、同月一二日付け採用通知を交付するとともに、不採用者に対しては、国鉄が文書又は口頭でその旨を伝えたが、不採用の理由は明らかにされず、本件救済申立対象者も、全員不採用となった。

11  国鉄は、昭和六二年三月四日、改革法一九条三項ないし五項に基づき、「国鉄の事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画」を作成し、同月二〇日、運輸大臣の認可を受けた。これによれば、国鉄の事業及び業務の大部分は承継法人が引き継ぎ、国鉄資産の大半、長期債務の相当部分を帳簿価により承継し、残りの資産及び債務は清算事業団が引き継ぎ、鉄道会社の設立時に発行する株式は、すべて国鉄で引き受け、これは同年四月一日以降、清算事業団に帰属することとされていた。

12  国鉄は、昭和六二年四月一日からの承継法人発足に向けて、同年三月三日から一〇日にかけて人事異動を発令した。そして、設立委員等は、同月一六日、前記採用予定者に対して承継法人発足後の所属、勤務箇所、職名等を通知した(甲第五号証、丙第一一号証、証人mの証言)。

13  昭和六二年三月一七日、鉄道会社合同の第四回設立委員会が開催され、各鉄道会社の定款案、取締役及び監査役の候補者並びに創立総会の日程等が決定され、同月二三日から二五日にかけて、各鉄道会社の創立総会が開催され、役員の選任等が行われ、また、承継法人の採用予定者は、同月三一日付けで国鉄を退職し、同年四月一日、承継法人の発足と同時に当該承継法人の職員となり、他方、同日、国鉄が清算事業団に移行したことに伴い、不採用者は、再就職を必要とする清算事業団職員となった。

14  その後、職員の欠員に伴い、JR北海道は、昭和六二年四月一三日、募集対象者を北海道地区に勤務する清算事業団の職員とし、採用予定人員を約二八〇名とし、採用予定日を同年六月一日とする職員の追加採用を行い(本件六月採用)、JR貨物は、同年五月一五日、募集対象者を北海道地区及び九州地区に勤務する清算事業団の職員とし、採用予定人員を五〇〇名とし、採用予定日を同年八月一日とする職員の追加採用を行った。

二  当事者の主張

1  争点1についての主張の要旨

(被控訴人ら)

以下のとおり、設立委員等において、およそ国鉄の採用候補者の選定及び名簿作成に関する責任が帰属する余地はなく、仮に、国鉄に不当労働行為に該当する行為があったとすれば、その責任は国鉄又は清算事業団との関係において処理されるべきである。

(一) 国鉄と承継法人の法主体としての区別

承継法人は、改革法その他の関係法令に基づき、昭和六二年四月一日に設立され、従前の国鉄の事業の一部を引き継ぐとともに、これに必要な国鉄の資産及び債務を限定的に承継し、他方、国鉄の権利義務関係は、右同日以降、清算事業団に移行したものであり(改革法一五条、清算事業団法附則二条)、国鉄と承継法人は法律上別個の法主体であることは明らかである。

(二) 承継法人の職員採用手続における設立委員等と国鉄の各権限の独立性承継法人の職員採用については、改革法において、それが新規採用であること(一九条、二三条三項)、その募集に当たっての労働条件及び採用基準の策定及び提示は設立委員等が行うとする(二三条一項)ほか、その採用手続上、採用候補者の選定及び名簿の作成に関する国鉄の権限(同条二項)と、国鉄が作成した名簿に記載された者の中から職員として採用すべき者を決定し、採用通知を発する設立委員等の権限(同条三項、五項)は別個独立に付与され、国鉄及び設立委員等がそれぞれ別個の法主体としてその権限を行使することとされているのであって、国鉄が設立委員等の指揮監督を受けてその権限の行使を代行ないし補助する立場にはない。

右のような設立委員等による職員採用手続の一部である労働条件及び採用基準の提示が国鉄を通じて行われるものとされたことは、あくまでも改革法の規定に基づくものであって、設立委員等の意思に基づくものではない。また、設立委員等が承継法人の職員採用に対して最終的な権限を有していたとしても、その権限は、改革法の明文によれば、国鉄作成に係る採用候補者の名簿に記載された者の中から新規採用職員を決定する段階における最終的権限というものにとどまるものであるから、右明文の規定に関わらず、設立委員等が右採用の前提となる全ての手続につき責任を負うと解することは到底できない。

なお、採用候補者の選定及び名簿の作成を国鉄の権限とする改革法二三条二項も、承継法人の職員の採用対象たる国鉄職員に関する資料が国鉄によって保有されていたうえ、承継法人の職員の採用募集や意思確認等の手続について短期間に大量の事務を遂行することが必要とされていたなど、設立委員等が自ら国鉄職員の中から承継法人の職員となるべき者を適正に選別、評定しうる立場にないことが明らかであったことから設けられたと解される。

また、国鉄改革関連八法案の国会審議における運輸大臣等の答弁で、国鉄と設立委員等の関係について、「準委任」「代行」などの表現が用いられているが、これは、その法的性格を意識して用いられたのではなく、単に法案説明の便宜として用いられたにとどまるというべきであり、このことは、議事録における発言内容に照らして明らかである。

(三) 新規採用における不当労働行為の不成立

承継法人の職員の採用は、改革法二三条からみて新規採用であることが明らかであり、右採用候補者が、国鉄職員に限定されていた点は国鉄改革という法の趣旨に基づくものであって、右改革法の規定の趣旨を変更するものでないことは明らかである。そして、その採用手続は憲法及び労組法に抵触するものでなく、また、同採用に関し、法律その他による特別の制限も存在しない。

ところで、企業は、憲法上の権利である経済活動の自由の一環として契約締結の自由を有し、労働者の雇用に当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができることは確定した判例(三菱樹脂事件に関する最高裁大法廷昭和四八年一二月一二日判決・民集二七巻一一号一五三六頁)であり、企業者の雇用の自由については、雇入れの段階と雇い入れた後の段階とで区別され、雇入れの段階では企業者の自由が広く認められる反面、雇い入れた後の段階では、当該労働者の既得の地位と利益を重視して、企業者の利益との権衡を図るべきであるとされていることからすれば、雇入れ段階における採用拒否について労組法七条一号前段の不利益取扱いに係る不当労働行為を認めることができないのは当然である。

また、憲法二八条の定める労働三権は、労使関係が存在する場合にのみ問題となるのであって、労使関係そのものの存続あるいは創設を強制するものではないことも明かである。

したがって、いずれも新規採用である本件四月採用及び六月採用に関して不当労働行為が成立する余地はない。

(四) 使用者概念拡張論の不適用

右拡張論は、労組法七条の「使用者」について、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は「使用者」にあたるとして判例で認められたものではあるが、右理論を適用するについては、「使用者」と認定された者が現実的かつ実質的に労務に対する一般的な指揮命令の権限を有し、それを行使する実態にあることを要すると解されるところ、本件において、被控訴人らの設立委員と本件救済申立対象者との間には、右判例がいうような関係は何ら存在しないから、右の理論が適用される余地はない。

(五) 実質的同一性の理論の不適用

学説及び労働委員会命令例には、①近い過去における労働契約関係の存在や近い将来における労働契約関係の可能性が認められる場合、②二つの企業が資本や役員等の関係から親子企業の関係にあり親企業が子企業の業務運営や労働者の待遇につき支配力を有しているなど、法人格を否認しうる場合、③労働組合を消滅させるために会社を一旦解散しつつ実質上同一事業を継続するなど、実質的同一性を有する場合においても、「使用者」性を認める見解が存する。

しかしながら、①の点は、本件救済申立対象者が採用候補者名簿に記載されていない以上、改革法上、承継法人の職員として採用される可能性はない。また、②の点は、承継法人は、改革法その他の関係法令に基づいて新たに設立された株式会社であるから、法人格否認の法理が適用される余地はない。さらに、③の点は、東京高裁平成七年五月二三日判決・労民集四六巻三号八九九頁が、実質的同一性の理論は「旧会社の解散と新会社の設立が組合壊滅の目的その他違法又は不当な目的に出た場合に適用することを想定したものと考えられ」る旨判示しているところであり、承継法人の設立は改革法その他の関係法令に基づくものであるから、実質的同一性の理論が適用される余地もない。

(中労委)

(一) 設立委員等の補助機関としての国鉄

改革法上、承継法人の職員として採用する旨の通知は設立委員等によってされるものであり、これは承継法人の職員の採用に関する最終的な権限と責任が設立委員等にあることを示すものであって、改革法が、設立委員等に通常の発起人一般の職務を超えた右採用行為を行わせることとしたことに照らせば、採用手続の全てが設立委員等の権限と責任に属するというべきである。ただ、改革法では、採用候補者の選定及びその名簿作成について国鉄を関与させているが、その理由は、国鉄改革に当たり、承継法人にはその設立と同時に鉄道輸送業務などの国鉄の主要な業務を引き継がせ、その事業を中断することなく継続させることが要請されるという業務上の特殊性が存し、また、経営の破綻状態から脱却させるための国鉄改革を緊急に行うべく、昭和六二年四月一日に新事業体による業務の開始が法定されているという事情があり、かつ、承継法人の職員の募集の対象者は国鉄職員に限定され、採用候補者を選定する資料は国鉄のみが有しており、設立委員等自らが採用候補者の選定を行うことができない事情にあったことによるものと解される。

右のとおり、承継法人の職員の採用に関する設立委員等と国鉄との関係は、本来設立委員等のなすべき手続の一部を国鉄に委ねたもので、国鉄の立場は設立委員等の補助機関の地位にあったと解される。この点は、改革法の立法過程で、運輸大臣及び政府委員が設立委員等と国鉄の関係を「準委任」「代行」と繰り返し答弁していることと符合する。

したがって、設立委員等又は承継法人と国鉄が別個独立の法主体であるとの前提に立っても、国鉄が行った採用候補者の選定及び名簿の作成過程において、労働組合の所属等による差別的取扱いと目される行為があり、設立委員等がその名簿に基づき採用予定者を決定して採用通知をした結果、それが不当労働行為に該当すると判断される場合、その責任は設立委員等に帰属するというのが改革法の趣旨に沿う。

(二) 承継法人の職員採用の特殊性

改革法二三条は、承継法人の職員については設立委員等によって採用されるという形式を定めるが、右採用は、採用対象者が国鉄職員に限定されること、職員の退職金及び有給休暇の扱いが通算されること、国鉄在職当時における懲戒処分も承継法人に引き継ぐことができるとされること(改革法等施行法二九条一項)、現に稼働していた国鉄の事業はそのまま承継法人に承継され、労使関係を含む人的関係も、少なくとも実態としては、ほとんどそのまま承継法人に承継されていることなどの事情に照らせば、明らかに通常の企業等における新規採用と異なる手続及び実態が存在しているものであるから、本件について、通常の新規採用と不当労働行為の法理の関係についての理論をもって判断するのは適切でない。むしろ、本件は、再採用ないし営業譲渡等に極めて類似しているというべきであり、改革法上、国鉄による採用候補者の選定、名簿の作成及び被控訴人らの設立委員への提出、同設立委員による採用通知、承継法人による採用という一連の過程において、国鉄のした不当労働行為責任を承継法人に負わせることを否定する根拠は存在しないというべきである。なお、清算事業団の目的及び業務の範囲は、清算事業団法によって限定されており、救済命令の名宛人としては不適当である。

(三) 採用拒否と不当労働行為

(1) 不当労働行為救済制度は、新規採用に際しても組合差別を禁止するものであり(労組法七条一号及び三号参照)、とりわけ、法が使用者による将来の組合活動に対する制約を不当として黄犬契約を禁止していることからすれば、それ以上に実害の著しい既往の組合活動を理由とする雇入拒否が不当労働行為になるのは当然である。

(2) 労働者の新規採用においては使用者に採用の自由が認められるとしても、法律その他による特別の制限に服すことに変わりはなく、同制限には不当労働行為の禁止が当然に含まれることになるから、使用者が採用の自由を手段として組合活動を積極的に侵害することは許されない。

(3) 承継法人の職員採用について、改革法二三条は設立委員等による「採用」と規定するが、採用対象者が国鉄職員に限定されていること、職員に関する退職金規定や有給休暇等の扱いに関して連続性がみられること、国鉄事業を現に稼働した状態において、労使関係を含む人的関係とともにその実態を承継させていることに照らせば、右採用の実態は通常の新規採用と異なるというべきであるから、通常の新規採用に関する法理を単純に類推適用するのは適切でない。

むしろ、右によれば、本件における採用は、労働者の再採用、営業譲渡等に極めて類似しているというべきであるから、それらに関する法理が援用されるべきである。それによれば、再採用の拒否の場合は当然のこととして、営業譲渡の場合に、組合所属等を理由に譲渡先会社による採用がされないことは、不当労働行為(労組法七条一号本文前段)に該当することになる。

(参加人ら)

(一) 設立委員等の使用者性

労組法七条の「使用者」への該当性を検討するについては、労組法の目的に照らし、不当労働行為救済制度が、労働者の団体交渉その他の団体行動のために労働組合を組織し、運営することを擁護すること並びに労働協約の締結を主たる目的とした団体交渉を助成することにあるとの観点から合理的に解釈されなければならない。そして、「使用者」の意義について、学説には解釈に広狭がみられるものの、労働者と労働契約関係が存する相手方に限られるものではないことでは異論はないうえ、本件同様に、企業が労働者の組合所属や組合活動を理由に採用を拒否した場合に、当該企業が労組法七条の「使用者」として不当労働行為責任を負うかどうかについて、「使用者」の範囲を広く解する立場からは当然に肯定され、狭く解する立場に立ったとしても、将来の労働契約の成立の現実性、可能性の如何によっては肯定されるところであり、労働省労政局の行政解釈でも、もし同条に該当するような行為がなかったならば、客観的にみてその労働者との雇用関係が成立すべきであると判断され得る者は「使用者」にあたるとされる。そして、本件において、被控訴人らの設立委員は、国鉄職員との労働契約が成立する以前から国鉄職員の団結権などに具体的な影響力を行使できる権限を有しており、また、国鉄が作成した採用候補者名簿に記載された国鉄職員は、全員承継法人の職員として採用されているのであって、もし、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成過程において、国労組合員であるがゆえに本件救済申立対象者全員を名簿に記載しないという不当労働行為がなかったならば、本件救済申立対象者全員が被控訴人らの職員として採用されていたことは明らかである。したがって、被控訴人らの設立委員は、国鉄職員あるいは国労との関係において、労組法七条の「使用者」にあたるというべきである。

(二) 設立委員等の補助者ないし受任者としての国鉄

(1) 改革法二三条は、採用主体としての設立委員等と募集対象たる国鉄職員との間の労働契約成立に向けての手続を規整したものと解される。そして、同条は、この手続過程に当事者以外の第三者である国鉄が一定の関与をすることを規定しているが、これは右当事者間の私法上の契約成立に向けた手続過程の一環にほかならない。そもそも、同条一項、二項の事務を国鉄を通じて行わせることにしたのは、承継法人の職員の対象が国鉄職員に限定され、国鉄がその職員を掌握しているという実態からする便宜的手段にほかならないのであって、同法はそれを明示したにすぎず、同法の文理上もことさらに設立委員等の権限外の事項として設立委員等の権限と切り離したなどというような性格のものではない。

(2) 一般に労働者の採用は、労働条件等を提示しての募集(申込みの誘引)、応募(申込み)、応募者の選考、採用決定とその旨の通知(申込みに対する承諾)という手順を踏み、これらは採用という労働契約の成立を目的とした一連かつ不可分の行為であって、改革法二三条の採用手続も右のような一般的契約理論を基礎に構成されている。そして、同条二項の国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成行為は、採用手続における企業側の内部的事実行為たる応募者の選考の一過程にすぎず、それは本来、採用主体である設立委員等が自ら行うべき性格のものである。このような国鉄の選考行為への関与を契約成立過程の中で採用主体である設立委員等との関係において意味のある行為として位置付けるならば、それは少なくとも設立委員等が内部において行うべき性格の行為を、国鉄が設立委員等のためにそれを手伝う、すなわち、補助者ないし受任者として選考行為を行うとみるのが最も自然である。改革法二三条は、右のような理解において設立委員等の行う選考行為を手伝う者として国鉄を指名したのである。

(3) 設立委員等が承継法人の職員の労働条件及び採用基準を策定したうえ、「国鉄を通じ」てこれを提示して職員の募集を行うとする改革法二三条一項は、採用行為の主体が設立委員等であることを明示するとともに、設立委員等が自らの権限である採用行為の一環としての募集を国鉄に補助させて行わせるという構造である。そして、同条二項の国鉄による意思確認、選定、名簿作成は、この募集に付随し、これに引き続く事実行為であって、意思確認は募集の一環であるし、選定及び名簿の作成は採用候補者決定事務の一環として、いずれも設立委員等の採用権限に属する内部行為を事実上行うにすぎない。また、国鉄が作成した名簿を設立委員等に提出するのは、もともとの権限主体に結果を報告する性格のものである。そして、これらの手続を経て、最終的な採用決定通知は、本来の採用主体である設立委員等がこれを行い、労働契約の成立として完結することになるのである(同条三項)。

(4) 改革法二三条を右のように理解すべきことは、国会審議等を通じて設立委員等はもとより、国鉄も認識していたところであり、かつ、かかる認識に基づいて改革法二三条が一回限り実施、適用されたのである。このことは、承継法人の職員の採用手続過程の実態、とくに、設立委員会が国鉄総裁や国鉄の職員局から派遣された国鉄職員等によって構成され、採用の基準の策定、承継法人の労働条件の決定、職員の募集、採用者の決定、採用通知、採用予定者の承継法人における職種、職場の配属決定及びその通知、承継法人の就業規則、労働協約案の作成などの実務作業を担当したことや、国労からの団体交渉の申入れに対する国鉄の対応や不採用通知の際の国鉄の国労組合員に対する対応などから裏付けることができる。

(5) 設立委員等が承継法人の職員の採用について最終的な権限を有することは、被控訴人らも認めるところである。そして、右に述べた改革法二三条の構造を併せ考慮すれば、設立委員等は、国鉄が設立委員等の補助者ないし受任者の立場において行った採用候補者名簿の作成及びその内容について、これを自ら行ったものとして法的責任を負うというべきであるから、被控訴人らの設立委員は、本件四月採用に関する国鉄の不当労働行為による責任を負い、したがって、被控訴人らも同責任を負うこととなる。なお、このような結論は、二つの法主体それぞれが独自の権限で行った行為であることを前提としても、一方の法主体の行為の責任を他方の法主体が負うべき場合があることを示すものであり、以下においても同様である。

(三) 国鉄による行為と設立委員等の行為との同一評価

(1) 国鉄と設立委員等の関係等をみると、①国鉄は鉄道会社の唯一の株主であり(会社法附則五条)、②鉄道会社の共通設立委員一六名のうち一名は国鉄総裁であり、同人は設立委員等を代表する権限を有していると同時に、国鉄の代表者でもある(国鉄法一三条一項)、③承継法人の設立事務にあたった設立委員会の職員の多くは国鉄職員であり、設立委員等が行うべき承継法人の内部規定や就業規則、労働協約は国鉄が作成するなど、設立委員会事務局と国鉄とは一体性を有していた、④設立委員等である国鉄総裁は、国鉄のした採用候補者の選定及び名簿の作成過程、すなわち、不当労働行為をすべて把握していたし、実務レベルでも、設立委員会の事務局職員の大半が国鉄職員であったから、設立委員等は、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成がいかなる基準で行われたかを現実に把握していた。

(2) 右のような国鉄と設立委員等との関係や採用候補者の選定及び名簿の作成過程における設立委員等と国鉄の関わり合いからすれば、国鉄の行為を労組法七条の「使用者」たる設立委員等の行為と評価するのが当然であるから、本件において、被控訴人らの設立委員は、本件四月採用に関する不当労働行為責任を負い、被控訴人らもその責任を負うというべきである。

(四) 国鉄と被控訴人らの実質的同一性

(1) 本件四月採用に関して、いわゆる実質的同一性の理論によって被控訴人らが国鉄の不当労働行為による責任を負うかどうかについては、新旧会社の①事業、業務内容、②株式所有関係、③役員、管理職の人的関係、④財産、権利関係、⑤従業員等についての各同一性の有無を基準として判断すべきである。

(2) これを本件についてみるに、JR北海道が国鉄から事業を承継する地域が北海道に限定され、JR貨物が国鉄から承継する事業が貨物鉄道事業に限定されたとはいえ、国鉄の事業等を引き継いでいることから、事業の内容及び形態の同一性を認めることができる(右①)。株式関係をみると、国鉄は政府が一〇〇パーセント出資の公社であった(国鉄法二条、五条一項)のに対し、被控訴人らは、その発行済株式総数のすべてを国鉄が引き受けており(会社法附則五条)、現在もなお、国鉄から移行した清算事業団がこれを保有している関係にある(右②)。また、改革法一九条ないし二二条は、被控訴人らを含む承継法人は、鉄道事業及びそれに附帯する事業に必要な国鉄資産を承継する旨を規定しており、現に被控訴人らは、その事業に必要な資産のすべてを国鉄から引き継いでいることから、資産及び施設関係についての同一性もあるといえる(右④)。さらに、役職員や従業員、労働条件、労務政策の同一性をみると、被控訴人ら発足時の役員のほとんどは国鉄幹部によって占められ、とくにJR北海道発足時の代表取締役社長は国鉄道総局長、常務取締役は道総局次長であった。また、部課長も国鉄の幹部職員でその大半は道総局の幹部で、現場管理者もすべて国鉄の区長、駅長、助役等であるし、他の職員も全員国鉄職員であった。労働条件についても、退職手当、有給休暇の算定基礎となる在職期間に国鉄時代の在職期間を含めること、承継法人成立時の職員の賃金は国鉄時代の賃金水準を維持すること、一週平均の労働時間は国鉄時代の四〇ないし四八時間を維持することなど、国鉄時代の労働条件が被控訴人らに承継されている。労務政策についても、被控訴人らは国労を敵視して「一企業一組合」という目標を掲げており、国鉄分割民営化の過程における国鉄の労務政策と全く変わっていない。

さらに、改革法等施行法二九条一項は、改革法施行前に国鉄が行った懲戒処分の効力は、国鉄を退職して承継法人に採用された後も継続し、改革法施行前の規律違反行為にかかる事案に対しては、清算事業団から委任を受けた承継法人が懲戒処分を行うと規定している(以上、右③及び⑤)。

(3) 以上によれば、国鉄と被控訴人らは実質的な同一性を有することは明らかであり、被控訴人らは、本件四月採用に関する不当労働行為責任を負うというべきである。

(五) 採用拒否と不当労働行為

改革法二三条では、承継法人の職員について「採用」という法形式を規定するが、国鉄改革による国鉄事業の承継法人への引継ぎは、業務の継続性が大前提とされ、かつ、そのためには労働関係の継続性・連続性の保障が不可欠であったことからすれば、右事業の引継ぎの実態は、営業譲渡により経営主体が変更されたものとして、本来は国鉄職員に関する労働契約に関する法律関係も承継法人に承継されると解されるものである。ただ、国鉄改革においては国鉄が抱えていた余剰人員の整理も目的とされていたことから、国鉄職員をそのまま承継法人の職員として承継するという形式にはよらず、改革法二三条において「採用」という形式を規定したにすぎないものである。そうすると、同規定の「採用」は、新規採用を意味するものではなく、むしろ右実態に従って「承継」ないし「再採用」の性格を有することを前提として解釈されるべきであり、本件における承継法人の職員採用に関する組合差別の問題も、不当労働行為責任の有無を検討するに当たっては、経営主体の変更に伴う新会社の採用差別として位置付けられることになる。

また、余剰人員整理という目的を達成するについては、改革法二三条による方式の選択が必然であったわけではなく、一般の民間会社で採用される整理解雇の方法もあるところ、同方法による場合にそれを有効とするためには、整理解雇の対象者選定が合理的基準に依拠しなければならないとされることから、組合差別の目的をもって右選定を行うことは法的に許されない。それにもかかわらず、改革法二三条を形式的に新規採用を規定するものと解釈することは、余剰人員の解消に対する整理解雇における法的規制を、使用者の「採用の自由」の問題によって回避するという不当な結果となる。

以上のとおり、改革法二三条の「採用」は、承継ないし再採用を意味するものと解するのが相当であるから、その職員採用過程において、当該職員が国労組合員であることを理由に解雇され、あるいは、不利益な取扱いを受けることは、まさに労組法七条一号本文前段において禁止される不当労働行為にあたる。

2  当審における参加人らの新たな主張

(一) 設立委員等の審査・是正義務違反による不当労働行為

(1) 改革法二三条によれば、設立委員等には、承継法人の職員の採用基準及び最終的な職員採用に関する各決定権限があり、国鉄は、設立委員等の提示した採用基準に従って承継法人の職員の採用候補者名簿を作成すべき義務を負うものであるから、設立委員等は、国鉄による右名簿作成が右採用基準に合致しているか否かを実質的に審査し、もしそれが合致していない場合には、国鉄に対し、右採用基準に合致するように名簿の是正を求める権限を有する。右名簿の送付に当たっては、当該名簿に記載した職員の選定に際し判断の基礎とした資料を添付することとされている(改革法施行規則一二条二項)のは、このような設立委員等の権限行使を実効的に担保する趣旨であると解される。

(2) ところで、設立委員等の定める採用基準の内容は、客観的かつ公正なものでなければならず、改革法が労組法の適用を排除していない以上、労組法七条の不当労働行為の禁止も当然その基準に含まれるのであるから、設立委員等としては、右名簿作成に当たって国鉄に不当労働行為と目される行為があった場合には改めてこれを審査したうえ、設立委員等の提示した採用基準に反するものとして、国鉄に対して名簿の是正を命ずる権限があるのみならず、是正を命ずる作為義務があると解すべきである。そして、設立委員等がこのような作為義務を履行しなかった場合には、義務不履行の結果については設立委員等はその責任を負わねばならないから、右名簿作成に当たって国鉄が行った不当労働行為は設立委員等のした行為と評価されて、設立委員等がその責任を負うといわなければならない。

(3) 国鉄は、昭和六一年以降、国鉄の分割・民営化に向けての動きが具体化するとともに、国労ないしその組合員に対して、分割・民営化によって成立する法人の職員採用において国労組合員であることが不利に働くことを言明し、国労からの脱退工作も全国的に行われ、当時から不当労働行為が行われていた。右の状況は設立委員全員のみならず設立委員会事務局も認識していたことは明らかであり、とりわけ、共通設立委員であったnは当時国鉄総裁の地位にあり、国労に対する差別を指揮し、一方では、承継法人の職員の採用候補者名簿作成の最高責任者でもあったのであるから、国鉄総裁が作成した右名簿に前記のような組合差別が存在すれば、設立委員等には、改めてこれを審査したうえで、その是正を命ずべき作為義務が発生するのは当然である。

(4) 以上のとおり、設立委員等は、国鉄が、承継法人の職員の採用候補者名簿作成に当たり、国労組合員であることを理由に右名簿登載において差別するという不当労働行為を行い、明らかに設立委員等の選定した採用基準に反する行為を行っていることを認識し、あるいは容易にそれを認識し得る状況にあったものである。

それにもかかわらず、被控訴人らの設立委員がこれに対して何らの是正措置を講じることもなく、右名簿を前提にこれを承認して採用通知を発した結果、本件救済申立対象者はいずれも右の名簿に記載されず、被控訴人らに採用されなかったのであるから、国鉄に対して名簿の是正を命ずべき作為義務に違反した被控訴人らの設立委員は、国鉄による右名簿への不登載という不当労働行為の責任を負わなければならない。

(二) 黄犬契約による不当労働行為

(1) 黄犬契約とは、組合に加入しないこと又は組合から脱退することを雇用条件とすることであり、労働契約締結に際しての雇用条件を通して行われる団結権侵害として禁止されるもの(労組法七条一号)であるが、その禁止の立法趣旨が、従業員たる地位を得て自主的な団結活動をするのを事前に抑制することを不当労働行為とするところにあることからすれば、組合一般への不加入・脱退にとどまらず、特定組合への加入強制あるいは一般的に組合活動を禁止すること、さらには、組合への不加入・脱退を募集条件として掲げることなども、募集条件が締結しようとする労働契約の内容として提示されるものであることに照らせば、同じく黄犬契約に該当すると解すべきである。

(2) 改革法二三条一項によれば、設立委員等は、承継法人の職員募集の主体であり、その募集の労働条件及び採用基準に関する決定権限を有するところ、右採用基準は人材選択の基準としての性格を有し、同基準の提示はすなわち募集条件の提示である。設立委員等は国鉄を通じて募集条件を提示して職員募集をするところ、その際、国鉄は設立委員等の手足として事実行為のみを行うものであり、設立委員の履行補助者(補助機関)である。

したがって、仮に設立委員等が組合差別的な採用基準を自ら提示しなくても、国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められる場合には、これをもって設立委員等の行為とみることができ、設立委員等が承継法人の職員の募集条件としてこれを定めたものと同視することができるから、右組合差別的な募集条件の有無及び内容についての設立委員等の認識ないし認識可能性を問題とするまでもなく、また、改革法二三条二項が規定するところの国鉄による採用候補者の選定及び名簿作成に対する設立委員等の権限の有無を問題とする必要もない。

なお、募集条件の提示ないし表明には、必ずしも明示的に表現されたものではなくとも、国鉄が承継法人の採用候補者の選定に関して組合差別的な言動を行い、そのことが具体的事実関係の下で、国鉄が右募集に当たり特定の労働組合に属することを理由に右選定において不利に取り扱う意思を外部に表白したに等しいとみるべき場合を含むものと解すべきである。

(3) 改革法二三条により設立委員等の職員募集の履行補助者とされた国鉄は、同法成立の前後を通じて、国労組合員が承継法人に採用されない旨、様々な手段及び機会を駆使して再三表明してきたのであり、それにより、国労からの多数組合員の脱退(国労の組織率は、昭和六一年一月一日時点での六九・五パーセント(一八万四五二三人)から、昭和六二年二月時点での二七・三パーセント(同年四月時点では約四万四〇〇〇人)に激減)と他の労働組合の肥大化(昭和六二年四月時点で組合員約一〇万人余、組織率約五四パーセント)という異常な状況が生じたうえ、前記「争いのない事実等」記載のとおり、承継法人の職員採用に当たり右組合差別を反映した採用状況が生じたものである。

このような国鉄の行為は、実質的にみて、国労への不加入又は脱退等を募集条件に掲げたものといってよく、黄犬契約の禁止に違反したものというべきである。

(4) したがって、国鉄の右行為は、被控訴人らの設立委員が承継法人の職員の募集条件として右差別的事項を定めたものと同視することができるから、右黄犬契約としての不当労働行為の責任は被控訴人らの設立委員、ひいては被控訴人らに帰属するといわなければならない。

3  当審における参加人らの新たな主張に対する被控訴人らの反論

(一) 新たな主張提出の可否

参加人らは、当審において、新たに設立委員等の審査・是正義務違反及び黄犬契約による不当労働行為の成立に関する主張を提出するが、いずれも中労委の主張と抵触するものであり、民事訴訟法四五条二項において許容される限界を逸脱したものである。

また、中労委命令は、労働委員会規則に基づく特別な手続及び制度的保障のもとに決定されているものであるから、中労委における手続を離れた現段階において、参加人らが中労委命令の理由に追加又は変更を加えることができないというべきである。

(二) 設立委員等の審査・是正義務の不存在

既に主張したとおり、設立委員等及び承継法人と国鉄は別個独立の法主体であり、また、改革法の規定によれば、承継法人の職員採用は新規採用の性質を有し、その採用過程のうち、同職員の採用候補者の選定及びその名簿作成については国鉄の権限とされるところ、同権限は改革法二三条二項により特に付与されたものであり、国鉄において独立して行使するものとされ、設立委員等による指揮、監督を受けるべき関係にはなかった。

したがって、設立委員等は、右名簿の提出を受けた場合、国鉄作成の右名簿に記載された者の中から新規採用職員を決定するという意味での最終的権限を有するにとどまり、右採用の前提となったその名簿作成につき、国鉄に対して是正を命ずる権限まで有していたとはいえないから、右権限の存在を前提とする右是正を命ずべき作為義務が設立委員等に生じる余地もない。

(三) 黄犬契約による不当労働行為の不成立

参加人らは、設立委員等の補助機関である国鉄の黄犬契約による不当労働行為に基づく責任を問題とするが、国鉄が設立委員等の補助機関であることを前提とする立論は、前記主張のとおり、改革法の正当な解釈に反することは明らかであって、理由がない。

第五判断

当裁判所も、原審と同様に、被控訴人らの甲事件に関する請求は理由があり、参加人らの乙事件に関する請求に係る訴えは不適法であると判断するが、その理由は、以下のとおりである。

一  争点1について

1  国鉄改革関連八法の目的等

国鉄改革関連八法は、前記第四、一1のとおり、国鉄による鉄道事業の経営が巨額の累積債務を抱えながら膨大な余剰人員を擁しているという危機的状況が生じており、当時の公共企業体である国鉄が従前どおり全国を一元的経営体制を維持したままで、その事業の適切かつ健全な運営を確保することが困難となっているという事態を受けて、監理委員会が、国鉄改革に向けて政府に示した①国鉄事業の分割・民営化、②新事業体発足時の適正要員規模、③余剰人員を再就職を必要とする職員として国鉄の清算法人的な組織に所属させ三年間で転職させることなどの最終答申に沿い、政府提出の法案として成立した法律である。したがって、国鉄改革関連八法の主たる目的は、改革法一条等からも理解できるとおり、国鉄の鉄道事業等の経営が破綻している事態に対処し、効率的で輸送需要の動向に的確に対応しうる新たな経営体制を実現するため、経営形態の抜本的な改革を法的に整備することによって、国鉄の事業を六旅客会社、一貨物会社などの複数の事業体に分割するとともに、国鉄の抱える膨大な余剰人員の可及的な解消を図ることにあったものと認められる。

2  国鉄から承継法人への「事業の引継ぎ」と「権利義務の承継」に関する改革法等の基本的考え方

(一) 「事業の引継ぎ」については、国鉄の旅客鉄道事業の経営を分割し、北海道、東日本、東海、西日本、四国及び九州の各旅客会社(株式会社)を設立してこれらに引き継がせ(改革法六条)、国鉄の経営する貨物鉄道事業を旅客鉄道事業の経営から分離したうえ、貨物会社(株式会社)を設立してこれに引き継がせるものとされ(同法八条)、その他、連絡船事業(同法九条)や旅客自動車運送事業(同法一〇条)等に同旨の規定があるが、これらは、いずれも事業引継を行うこととなる主体相互の対応関係を明らかにしたものである。

(二) そして、具体的な「事業の引継ぎ」と「権利義務の承継」の内容及びその実施計画については、運輸大臣が右に関する基本計画を定めることとされ(改革法一九条一、二項)、国鉄に対し、各承継法人ごとに、その事業等の引継ぎ並びに権利及び義務の承継に関する実施計画を作成すべきことを指示し(同条三項)、国鉄は、右指示があったときは、基本計画に従い実施計画を作成し、運輸大臣の認可を受けなければならないとされている(同条五項)。

しかし、国鉄における労働契約関係は、右実施計画に記載すべき「承継法人に承継させる権利及び義務」に掲げられておらず(改革法一九条四項)、承継法人の職員については、設立委員等が国鉄を通じて募集するものとされた(同法二三条一項)。

(三) 前記認可を受けた実施計画において定められた国鉄の事業等は、承継法人の成立の時において、それぞれ承継法人に引き継がれ(同法二一条)、承継法人は、それぞれ、その成立の時において、国鉄の権利義務のうち右実施計画において定められたものを、その定めるところに従って承継することとされた(同法二二条)。

他方、国鉄が承継法人に事業等を引き継いだときは、国は、国鉄を清算事業団に移行させ、承継法人に承継されない資産、債務等を処理するための業務等を行わせるほか、臨時にその職員の再就職の促進を図るための業務を行わせるものとされた(改革法一五条、清算事業団法一条)。

そして、昭和六二年四月一日、承継法人が成立するとともに、前記実施計画に定められたところに従って、国鉄から承継法人への事業の引継ぎと権利義務の承継が行われ、一方、国鉄は清算事業団に移行し、承継法人に承継されない国鉄の権利義務は清算事業団に帰属することとなったものである。

(四) 以上のとおり、改革法では、従来の国鉄と国鉄職員との労働契約関係をそのまま承継法人に承継させるという方式を採用しない旨を明記したうえ、承継法人の職員については、設立委員等が国鉄を通じて新規に募集することとしたものである。したがって、承継法人に採用されなかった国鉄職員との労働契約関係は、国鉄が、承継法人に事業等を引き継いだ後に法的同一性を有して移行した清算事業団との間で存続することとしたということができる。これは、前記説示のとおり、国鉄改革が、国鉄の抱える膨大な余剰人員の可及的解消を図るため、経営形態の抜本的な改革によって国鉄事業の再生を図るという目的の下に、法律によって国鉄と国鉄職員との労働契約関係は承継法人に承継させず、承継法人とその職員の間については新たな労働契約関係を創設するとの方法が選択されたためと解される。

なお、改革法において、従来の国鉄と国鉄職員との労働契約関係をそのまま承継法人に承継することがない方式を採用する旨を明記している以上、承継法人の職員として採用された国鉄職員の退職手当等の通算規定(改革法二三条六項、七項)、清算事業団の職員については理事長が任命する旨の規定(清算事業団法一七条)があるとしても、承継法人における右労働契約関係の創設に関する基本が変更されることはあり得ない。また、中労委及び参加人らにおいて、改革法等施行法二九条一項が国鉄時代の懲戒処分も承継法人に引き継がれる旨を規定すると指摘するが、同規定は、国鉄との労働契約関係が清算事業団に移行した職員について適用されるものであって、承継法人に新規採用された職員に適用されるものではないから、右主張は理由がない。

3  承継法人の職員採用手続等に関する規定の概要

(一) 運輸大臣は、各鉄道会社ごとに設立委員等を任命する(会社法附則二条一項)ほか、国鉄職員のうち承継法人の職員となる者の総数及び承継法人ごとの数を基本計画において定める(改革法一九条二項三号)。

(二) 設立委員等は、当該鉄道会社の設立に関して発起人の職務を行う(会社法附則二条一項)ことに加えて、改革法二三条に定めるもの及び当該法人がその設立時において事業を円滑に開始するために必要な業務を行う(会社法附則二条二項)。

(三) 承継法人の職員の募集に関しては、まず、設立委員等が、国鉄を通じ、その職員に対し、それぞれの承継法人の職員の労働条件及び採用の基準を提示して、職員の募集を行い(改革法二三条一項)、次いで、国鉄は、右労働条件及び採用の基準が提示されたときは、承継法人の職員となることに関する国鉄職員の意思を確認し、承継法人別に、承継法人の職員となる意思を表示した者の中から、当該承継法人にかかる右採用基準に従って職員となるべき者を選定し、その名簿を作成して、設立委員等に提出するという手順となる(同条二項)。

なお、承継法人の労働条件の内容となるべき事項及び提示の方法、国鉄職員の意思確認の方法、その他、改革法二三条一項ないし三項の実施に関して必要な事項は、運輸省令で定めることとし(同条四項)、これを受けて改革法施行規則は、労働条件の内容となるべき事項、提示の方法及び意思確認の方法について規定する(九条ないし一一条)ほか、改革法二三条二項の名簿の記載事項及び添付資料について規定する(一二条)。

(四) 承継法人の職員の採用に関しては、改革法二三条二項の名簿に記載された国鉄の職員のうち、設立委員等から採用の通知を受けた者で、改革法附則二項の規定の施行の際(昭和六二年四月一日、同法附則一項)、現に国鉄職員である者が、承継法人の成立の時において、当該承継法人の職員として採用される(改革法二三条三項)。

また、承継法人の職員の採用について、当該承継法人の設立委員がした行為及び当該承継法人の設立委員に対してなされた行為は、それぞれ、当該承継法人がした行為及び当該承継法人に対してなされた行為とする(同条五項)。

(五) 右のとおり、改革法が規定する承継法人の職員に関する募集から採用までの手続は、設立委員等が、新規に採用する職員の募集を国鉄を通じて労働条件及び採用の基準を提示することに始まり、次いで、国鉄が、国鉄職員に対する意思確認と採用基準に従った選定及び名簿作成の各事務を行った後、設立委員等において、国鉄が作成した名簿に記載された者の中から職員として採用すべき者を決定し、採用通知を発するというように、設立委員等と国鉄とが各段階を分けてその各権限を行使し、順次、承継法人における職員の採用に向けての手続が段階的に構築されていき、設立委員等からの採用の通知に至るというものである。したがって、設立委員等が通常の会社設立の発起人であれば、右のような承継法人の職員採用に関する権限を有しないというべきことからすれば、右権限は、まさに改革法によって特別に付与されたものということができる。また、承継法人の職員の採用候補者を選定し、その名簿を作成して設立委員等に提出する国鉄の権限については、国鉄が、国鉄職員に関する資料を有してその事情を把握しているうえ、短期間に大量の事務を処理する必要性から、改革法により付与されたものである。そのうえ、各段階における設立委員等及び国鉄の各権限の範囲が明確に区別され、それが法定されており、しかも一方が他方に対しその権限の行使についてこれを規制し又は指揮監督し得る旨の規定は存在しない。

そうすると、設立委員等は、国鉄において作成した右名簿に記載された者の中からさらに選別して採用者を決定する権限は当然有するが、逆に、同名簿に記載されなかった国鉄職員についてこれを承継法人の職員に採用する権限はなかったものと認められる。

したがって、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成は、専ら国鉄の権限と責任に委ねられたものであり、国鉄が、設立委員等の権限に属する採用候補者の選定及び名簿の作成行為を補助ないし代行しているものと解することはできないというべきである。

4  国鉄に不当労働行為があった場合と設立委員等の使用者性の有無国鉄の行った承継法人の職員採用候補者に関する選定及び名簿作成の過程に不当労働行為に該当する行為があった場合に、設立委員等、ひいては承継法人が労組法七条による使用者としての責任を負うか否かについて判断する。

労組法七条における「使用者」は、一般的には労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害にあたる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は同条の使用者にあたるものと解される(最高裁第三小法廷平成七年二月二八日判決・民集四九巻二号五五九頁)。

使用者性に関する右基準に照らして本件をみると、前記説示のとおり、改革法上、国鉄と設立委員等はそれぞれ別個独立の主体と位置付けられているところ、国鉄の右権限は改革法により特に付与されたものであり、しかも設立委員等が国鉄の同権限に規制を及ぼし又は指揮監督することを許容する規定がないことからすれば、設立委員等が国鉄における採用候補者の具体的選定及びこれに基づく名簿作成過程を、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にはなかったというべきであるから、設立委員等をもって不当労働行為責任が帰属する使用者と認めることはできない。

そうすると、本件四月採用に関して国鉄の行った採用候補者の選定及び名簿作成の過程に不当労働行為に該当する行為があったとしても、その行為に関する労組法七条の使用者としての責任は、これを行った国鉄又は清算事業団が負うべきものであって、被控訴人らの設立委員、ひいては被控訴人らがその責任を負うことはないといわざるを得ない。

また、参加人らは、労組法七条に該当するような行為がなかったならば、客観的にみてその労働者との雇用関係が成立すべきであると判断され得る者は「使用者」にあたるとして、本件でも、被控訴人らの設立委員が、国鉄職員との労働契約が成立する以前から国鉄職員の団結権などに具体的な影響力を行使できる権限を有していたこと、国鉄が作成した採用候補者名簿に記載された国鉄職員は、全員承継法人の職員として採用されており、もし、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成過程において組合差別がなかったならば、本件救済申立対象者全員が被控訴人らの職員として採用される関係にあったから、被控訴人らの設立委員は、国鉄職員あるいは国労との関係において、労組法七条の「使用者」にあたると主張する。しかし、国鉄職員との労使関係が成立する以前から、設立委員等が国鉄職員の団結権等に具体的な影響力を行使できる権限を有していたとは認めることができないうえ、前記のとおり、設立委員等が国鉄の採用候補者の選定及び名簿の作成過程を規制し又は指揮監督をする権限がない以上、参加人らの右主張は採用できない。

なお、一般論として、不当労働行為の責任主体である使用者には、「近い将来において労働契約を締結する可能性がある者」も含まれるとする考え方もあり得るが、本件救済申立対象者は、いずれも承継法人の職員の採用候補者名簿に登載されていなかったものであるところ、前記説示のとおり、改革法上、右職員の採用が設立委員等が採用基準を提示したうえで行う新規採用であって、従前の国鉄とその職員の間に存在した労働契約関係を承継法人に当然引き継ぐという方式は採用されていないこと、承継法人への就職を希望する国鉄職員は、希望先の承継法人を第五希望まで申告することとされ、国鉄がこれを受けて就職先を全般的に調整、配分して採用候補者名簿を作成するため、必ずしも第一希望の承継法人の名簿に登載されるとの制度的保障はなかったこと、右採用候補者の選定及び名簿作成の権限は国鉄にのみ認められていたうえ、設立委員等が国鉄の右権限行使の過程を規制し又は指揮監督する権限がなかったのであるから、設立委員等において右名簿に登載された者について採否を決する余地はあったものの、名簿に登載されなかった者については、その採否を決する余地すらなかったことなどからみて、国鉄による前記候補者の選定及び名簿の作成に関して、設立委員等、ひいては被控訴人らが、「近い将来において労働契約を締結する可能性がある者」にあたると認めることはできない。

5  国鉄が設立委員等の補助機関ないし受任者であるとの主張について前記説示のとおり、承継法人の職員採用の手続における設立委員等及び国鉄の各権限は改革法により特に付与されたものであり、同手続過程が段階的に進行するのに対応し、各段階における設立委員等及び国鉄の各権限の範囲並びにその主体が法定されているもののみならず、設立委員等が国鉄の権限を規制し又は指揮監督する旨の規定は存在しない。したがって、承継法人の職員の採用に関する最終段階の権限と責任が設立委員にあるからといって、右手続の各段階における手続に関する責任を設立委員等が全て負うと結論付けることができないのは明らかである。また、改革法によって認められた設立委員等の右権限が、発起人一般に認められる権限を超えた内容を特に付与されたもので、その範囲も法定されていることに鑑みれば、本来設立委員等のなすべき手続の一部を国鉄に委ねたと解することはできず、国鉄が設立委員等の補助機関の地位にあったとする中労委の主張は採用できない。

たしかに、承継法人の職員採用に関する右手続は、最終的には、設立委員等と採用候補者との間における労働契約関係を創設するものであるという点をみれば、一般の労働契約締結の場合と差がなく、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成が、職員の採用過程における採用側の内部的事実行為の一つである応募者の選考という面があることも否定できないが、前記のとおり、改革法二三条が、右職員募集に始まり採用の通知をするまでの手続並びにその法的効果の帰属関係の全体について特別に定めを置いて、民法等の一般的な契約理論を排除したうえで、設立委員等及び国鉄に対しそれぞれ特別の権限を付与し、採用手続の各段階における権限の主体及び範囲を法定しているのであるから、国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成は国鉄の専権に属する事項であって、本来設立委員等が自ら内部において行うべき性格のものであるということはできない。したがって、国鉄が設立委員等の補助機関であるとの主張は理由がない。

同様の理由により、国鉄が設立委員等の補助者又は受任者であるとの参加人らの主張は理由がない。

6  国鉄と被控訴人らに実質的同一性が存在するとの主張について実質的同一性の理論は、旧会社の解散と新会社の設立が連続して行われる場合、それが労働組合を壊滅する目的その他違法又は不当な目的に出た場合に、新会社を名宛人とする救済命令を肯定することを前提に構築された理論であるから、両会社が単に実質的に同一性であることによって、直ちに適用されるというものではない。

そして、前記説示のとおり、改革法等に基づく被控訴人らの設立と国鉄の清算事業団への移行について、違法又は不当な目的をもってなされたといえないことは明らかである。のみならず、国鉄事業が承継法人に引き継がれたものではあるが、その積極、消極のすべての資産が引き継がれたものではなく、前記説示のとおり、事業の引継ぎの実施計画に基づいて、旅客鉄道事業及び貨物鉄道事業に必要な権利義務等を個々的に限定して、これを引き継がせたものであり、国鉄の長期債務や土地などの資産の一部が清算事業団に帰属したほか、日本鉄道建設公団の資産、債務の一部が承継法人や清算事業団に承継されていることにも照らせば、国鉄と承継法人の間に実質的な同一性があるといえるかについても疑問がある。

したがって、実質的同一性の理論を前提とする参加人らの主張は採用することができない。

7  新規採用における採用拒否と不当労働行為

企業は、契約締結の自由を有し、労働者の雇用に当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができると解される(三菱樹脂事件に関する最高裁大法廷昭和四八年一二月一二日判決・民集二七巻一一号一五三六頁)ことからすると、雇入れの段階においては、雇い入れた後の段階と異なり、企業者の自由が広く認められるものであり、採用希望者の地位及び利益との権衡の下にその自由が制限されるという場面ではなく、雇入れの拒否については労組法七条一号本文前段の不利益取扱いに係る不当労働行為が成立する余地はないものと解するのが相当である。

そして、すでに説示したとおり、承継法人の職員の採用は、改革法二三条に基づいて設立委員等において行われる新規採用であるうえ、同採用手続は憲法及び労組法に抵触するものとは解されず、また、右採用に関して法律その他による特別の制限も存在しないということができるから、右採用手続に関して労組法七条一号本文前段の不利益取扱いに係る不当労働行為が成立する余地がないというべきである。

したがって、本件四月採用及び六月採用に関して労組法七条一号本文前段の不当労働行為の成立を前提とする中労委及び参加人らの右各主張は採用できない。なお、黄犬契約による不当労働行為の成立に関する参加人らの主張については後記三2において改めて判断する。

8  国鉄、ひいては清算事業団に対する救済命令の実効性の主張について中労委は、本件四月採用に関し、通常の事業の廃止等による会社の解散や破産の場合と異なり、また、清算事業団の目的及び業務の範囲が限定されていることから、救済命令の名宛人を清算事業団とすることは不適当である旨主張し、参加人らは、不採用という団結権侵害の事実に対して清算事業団がそれを是正、回復させることは、清算事業団の目的、権限に照らして到底不可能であり、また、本件救済申立対象者は、平成二年四月一日付けで清算事業団を解雇されたのであるから、清算事業団に対して採用などの救済命令を発することは無意味である旨主張する。

たしかに、参加人らの本件不当労働行為救済申立てが、国鉄における原職又は原職相当職での採用取扱いを内容とするものであるのに対し、清算事業団においては、国鉄長期債務その他の債務の償還、国鉄の土地その他の資産の処分等の業務ほか、臨時に職員のうち再就職を必要とする者についての再就職の促進を図るための業務を行うにとどまるとされる(清算事業団法一条、二六条)ことからすれば、清算事業団を名宛人として原職又は原職相当職での採用取扱いなどの救済方法を命じることは現実には不可能であり、その意味では実効性を欠くといわざるを得ない。

しかし、これは清算事業団の設立目的からくる制約であり、また、不当労働行為の救済については、使用者以外の者に対し救済命令を発することができないとされている以上、やむを得ないところである。

労組法二七条に基づく救済の申立てがあった場合において、労働委員会はその裁量により使用者の行為が労組法七条に違反するかどうかを判断して救済命令を発することができると解すべきものではない(最高裁第二小法廷昭和五三年一一月二四日判決・裁判集民事一二五号七〇九頁)ところ、設立委員等、ひいては被控訴人らが労組法七条の使用者にあたらないことは前記説示のとおりであるから、それにもかかわらず中労委が採用取扱いなどの救済方法を可能ならしめるために、被控訴人らを労組法七条の使用者にあたると判断したうえで救済命令の名宛人としたというのであれば、中労委命令は明らかに違法というべきである。また、国鉄の分割・民営化という国鉄改革は、国の政策によって実施されたものではあるが、労組法の定める不当労働行為の救済制度との関係において、これを通常の事業の廃止等による会社の解散や破産の場合と別異に解する理由はないし、労働委員会は救済方法の内容の決定について広汎な裁量権を有するとしても(最高裁大法廷昭和五二年二月二三日判決・民集三一巻一号九三頁)、法令上の制約を受けるものであるから、国鉄、ひいては清算事業団に対する救済命令が、清算事業団の目的等に照らして一定の制約を受ける結果になったとしても、やむを得ないものというべきである。

9  憲法二八条、ILO九八号条約、国際人権A規約違反の主張について参加人らは、改革法二三条の採用手続のもとで行われた不当労働行為について、その救済が実質的に否定されるような結果になれば、同条自体が憲法二八条、ILO九八号条約、国際人権A規約に違反する旨主張する。

憲法二八条は団結権、団体交渉権及び団体行動権の労働基本権を保障し、ILO九八号条約一条は、反組合的差別待遇に対する保護についての規定を設け、国際人権A規約八条は、団結権及び同盟罷業権についての規定を設け、改革法等施行法一四四条による改正前の公営企業等労働関係法四条一項、八条は、国鉄職員に対して団結権及び団体交渉権を保障している。しかしながら、憲法二八条は、労組法等の法令により具体化された権利を超えて、労働契約関係の存続又は創設を強制し得る権利までも保障しているものとは到底解されないし、前記説示のとおり、設立委員等、ひいては被控訴人らは労組法上の使用者としての責任を負うべき立場にないのであるから、このような者に対する権利まで保障したものと解することもできない。また、前記説示のとおり、国鉄が本件四月採用に際して不当労働行為を行った場合には、それに対する救済は国鉄、ひいては清算事業団との間で図られるべきものとされ、不当労働行為制度を全く排除しているものではないことに鑑みれば、改革法二三条が憲法二八条、ILO九八号条約、国際人権A規約に違反すると解することはできない。

よって、参加人らの主張は採用することができない。

二  当審における参加人らの新たな主張提出の可否について

1  参加人らの新たな主張

参加人らは、当審において、新たな主張として、(一)設立委員等が国鉄の作成した採用候補者名簿に対してこれを審査し、是正を命ずべき作為義務に違反したことを理由とする不当労働行為の成立、(二)国鉄が組合差別となる募集条件を示して職員候補者を募集し、国労組合員を不採用としたことが黄犬契約としての不当労働行為に該当することを理由とする設立委員等の不当労働行為の成立を主張する。

2  新たな主張提出の可否

右は、いずれも中労委命令の理由と異なる主張を、参加人らが、当審において追加して主張したものである。

一般に行政処分の取消訴訟における訴訟物は、当該処分の違法性一般であると解され、その取消訴訟において行政庁が原処分の理由と異なる理由を主張することは、それにより処分自体の同一性を害する場合を除き、原則として許されると解すべきである。このことは、救済命令の取消訴訟においても同様と解すべきところ、参加人らの新たな主張の内容は中労委命令の理由中に記載された基本的事実関係を前提として、国鉄が行った名簿作成行為に対する設立委員等の審査・是正義務違反及び国鉄による組合差別的な募集条件の提示行為が労組法七条の不当労働行為に該当し、その責任が設立委員等に帰属するというものであるから、右追加的主張をすることが中労委命令の同一性を害するとまで認めることはできない。また、中労委において未だ右追加的主張を提出していないとしても、本件訴訟における争点及び前提事実において同一性があること、その他、従前における中労委の訴訟行為の内容等に照らせば、参加人による右追加的主張の提出が中労委の本件における訴訟行為と抵触すると解することもできない。

三  当審における参加人らの新たな主張について

1  設立委員等の審査・是正義務違反による不当労働行為

(一) 参加人らは、設立委員等としては、国鉄による承継法人の職員の採用候補者に関する名簿作成が、設立委員等の定めた採用基準に合致しているか否かを実質的に審査し、合致していない場合には、国鉄に対し、右採用基準に合致するように名簿の是正を求める権限を有していることを前提に、国鉄から右名簿の提出を受けた際、国鉄が右名簿作成に当たって不当労働行為と目される行為をしたことを設立委員等において認識し、あるいは容易に認識し得たときはその是正を命ずるべき作為義務が発生し、それにもかかわらず設立委員等が何ら作為義務を履行しなかった場合には、同不履行の結果について設立委員等はその責任を負わねばならないから、右名簿作成に当たって国鉄が行った採用候補者の選定と不採用者の排除という不当労働行為は設立委員等の行為と評価されて、設立委員等がその責任を負うと主張する。

(二) そこで、参加人らが右主張において作為義務の根拠とする権限の有無について検討するに、前記説示のとおり、承継法人の職員採用の手続における設立委員等及び国鉄は別個独立の主体性を有し、かつ、各主体が有するそれぞれの権限は改革法によって特に付与されたものであるうえ、同手続過程が段階的に進行するのに対応し、各段階における設立委員等及び国鉄の各権限の範囲並びにその主体が法定されているものであり、しかも、一方が他方に対してその権限の行使を規制し又は指揮監督し得る旨の一般的規定も存在しない。

参加人らは、設立委員等が承継法人の職員の採用基準及び最終的な職員採用に関する各決定権限を有し、他方、国鉄が設立委員等の提示した採用基準に従って承継法人の職員の採用候補者の選定及びその名簿を作成すべき義務を負うことをもって右規制又は指揮監督に関する権限の根拠と主張する。たしかに、改革法二三条一項及び二項によれば、右採用基準及び承継法人の職員の採用に関する最終段階の各決定権限が設立委員等に、右採用基準に従って右候補者の選定及びその名簿作成をする各権限が国鉄に、それぞれ認められているものであるが、国鉄による右の各権限行使に対する設立委員等の規制又は指揮監督に関する具体的権限を認める規定は同条項中には存在せず、同条三項も、設立委員等が、国鉄において作成した右名簿に記載された者の中から承継法人の職員を採用するものと規定しているだけであるから、右規定をもって国鉄による採用候補者の選定及び名簿の作成の権限行使に対し設立委員等がこれを規制し又は指揮監督し得る権限を認めたものと解することはできない。

(三) これに対し、設立委員等に右是正義務があることを主張する論拠としては、参加人らの前記主張のほかに、①設立委員等の定めた採用基準に基づいて、国鉄は承継法人の職員の採用候補者選定等に当たって、より具体的な適用基準を定め、これに基づいて名簿を作成したものであるが、右適用基準の決定は職員の採用に関する判断の核心となる部分であるから、その適用基準の決定及びこれに基づいた採用候補者名簿の作成を、経営を破綻させた国鉄の専権にゆだねたと解するのは相当でないこと、②改革法が設立委員等に採用の基準、ひいては採用候補者選定の判断基準の決定権限を与えながら、国鉄が採用の基準に従って採用候補者の選定及び名簿の作成をしたか否かについて、設立委員等がおよそ審査することができないと解することは背理であること、などが考えられる。

(四) しかしながら、①については、改革法が国鉄に採用候補者の選定及び名簿の作成に関する権限を与えたのは、前記説示のとおり、当時、承継法人の採用対象となる国鉄職員についての資料は国鉄当局が保管してその事情を把握しているうえ、短期間に大量の事務を処理する必要性もあることから、職員に対する意思確認や採用基準に従った名簿の作成を国鉄にゆだねるのが相当と考えられたからであり、したがって、その立法趣旨と国鉄による経営の破綻責任とは次元を異にする問題であるから、①の主張は理由がない。

②については、もし、承継法人の各設立委員がそれぞれに対応する承継法人の職員候補者の選定及び名簿の作成について国鉄に対し個別にその事務を委任したのであれば、民法の一般理論に基づき、国鉄の行った事務について審査し、是正を求めることは可能であり、およそ設立委員等にそのような権限がないとすることは背理であると考えられる。しかし、前記説示のとおり、改革法は国鉄改革の目的を達成するために、承継法人と職員との労働契約関係の創設に当たっては、民法等の一般的な契約理論を排除して、改革法二三条により承継法人の職員の採用手続を定めたものであり、設立委員等及び国鉄の権限も改革法によって特別に付与され、採用手続の各段階における設立委員等及び国鉄の権限の内容も法定され、設立委員が国鉄の権限行使を規制し又は指揮監督し得る規定は存在しないのであるから、職員の採用候補者の選定及び名簿の作成をした国鉄に対し、最終的な採用主体である設立委員等がこれを審査し、是正することができないことをもって背理であるとすることはできず、したがって、②の主張は理由がない。

(五) したがって、国鉄による右候補者選定及び名簿作成に対し、設立委員等がこれを審査し、その是正を命じる権限及び義務を認めることができない以上、その余を判断するまでもなく、参加人らの右主張は理由がない。

2  黄犬契約による不当労働行為

(一) 参加人らは、設立委員等自らが組合差別的な採用基準を提示しなくても、設立委員等の補助機関である国鉄が組合差別的な募集条件を付加したものと認められる場合には、これをもって設立委員等の行為とみることができ、設立委員等が承継法人の職員の募集条件としてこれを定めたものと同視することができるから、本件採用手続の過程において国鉄がした黄犬契約の禁止に反する行為は不当労働行為に該当すると主張する。

(二) 労組法七条一号本文後段は、不当労働行為に該当する黄犬契約の類型を掲げ、これを禁止する旨規定するが、そこでの黄犬契約は、組合に加入しないこと又は組合から脱退することを雇用条件とするというものであり、労働契約締結の際に雇用条件を通して行われる団結権の保障に対する積極的侵害の行為類型というべきところ、企業者が採用の自由に名を借りて、団結権保障を事前に抑制することを不当労働行為として禁じるという同規定の趣旨に照らせば、特定組合への不加入又はそれからの脱退を募集条件として掲げることも、企業者が採用の自由を手段として団結権保障を事前かつ積極的に侵害する効果を有するということでは同一の行為類型に属するというべきであるから、他の要件が加わることによって、右規定にいう「雇用条件とする」という文言に該当する場合もあり得ると解される。

しかし、募集条件といっても多義的であって、その内容も抽象的なものから、数字等を含む具体的なものまであり、また、仮に組合差別的な募集条件を一般に提示したとしても、これに対する応募行為がない段階では、救済すべき対象者がいないのであるから、およそ不当労働行為というものを観念する余地はない。したがって、組合差別的な募集条件の提示が黄犬契約における「雇用条件とすること」に該当するのは、募集に応じた特定の応募者に対し、文字通り、当該募集条件を雇用の条件として定めた場合を指すものと解すべきである。

しかも、本件の場合には、そもそも救済命令の対象とされた者は、国鉄の作成した名簿に登載されず、したがって、設立委員等はこれを採用することができなかったのであるから、国鉄による名簿不登載行為が労働組合法七条一号本文前段の不利益取扱いに該当することがあっても、右不採用者については、組合差別的な募集条件を雇用条件として定めることはあり得ず、したがって、同号本文後段の黄犬契約が成立する余地はないといわざるを得ない。

仮に、国鉄による承継法人の職員候補者の選定の段階において、応募者に対し、特定の募集条件を示したことが黄犬契約の禁止に触れる場合があるとしても、本件においてそれに該当するか否か、また、その場合に、設立委員にその不当労働行為責任が及ぶか否かを念のため、以下検討する。

(三) 設立委員等が提示した承継法人の職員の採用に関する基準は、前記第四、一5のとおりであって、いずれも組合差別的な事項を内容とするものでも、あるいは、そのような内容を付加しているものでもないことが明らかである。

また、国鉄は、前記採用基準に基づく候補者選定等に関し、同採用基準をより具体化するものとして「昭和五八年四月以降の非違行為により停職六か月以上の処分又は二回以上の停職処分を受けた者は、明らかに承継法人の業務にふさわしくない者として、採用候補者名簿に登載しない」などの適用基準を設定していたものであるが、このような適用基準はそれ自体として合理性を有しているということができるから、右適用基準を国鉄が設定したことをもって直ちに組合差別的な募集条件が付加されたと断ずることはできない。

のみならず、前記説示のとおり、改革法二三条は、承継法人と職員との労働契約関係の創設に当たって、国鉄を設立委員等の補助機関とせず、設立委員等及び国鉄に対し、それぞれ特別の権限を付与し、右採用基準に従って承継法人の職員への採用候補者を選定し、その名簿を作成することを国鉄の独立した権限として法定したものであり、国鉄が承継法人の職員の採用候補者を選定し、その名簿を作成するについては、国鉄に独立した権限が付与され、しかも設立委員が国鉄の同権限行使を規制し又は指揮監督する権限を有していなかったものであるから、仮に国鉄が組合差別の意図を持って右候補者選定及び名簿作成に資するため、設立委員等の定めた前記採用基準についての具体的な適用基準を定めたとしても、右適用基準の設定をもって設立委員による組合差別的な採用基準を設立委員等が提示したとみることはできない。

したがって、前記のような労組法七条一号本文後段に関する解釈を前提としても、黄犬契約に基づく不当労働行為の責任が被控訴人らの設立委員、ひいては被控訴人らに帰属することはなく、参加人らの右主張は採用できない。

四  小括

以上のとおり、本件四月採用に関して国鉄に不当労働行為に該当する行為があったとしても、被控訴人らの設立委員は労組法七条の「使用者」に該当せず、また、その他、右不当労働行為の責任を右設立委員に帰せしめる事由もないから、被控訴人らもその責任を負わないというべきである。

そうすると、中労委命令のうち、本件四月採用にかかる部分は違法であって取消しを免れない。

また、中労委は、本件六月採用も不当労働行為にあたると認定して救済命令を発したものであるが、中労委命令中の右部分に係る主文において、採用選考をやり直した結果、採用すべきであるとされた職員の採用の時期を昭和六二年四月一日としていることに照らせば、本件六月採用は本件四月採用が不当労働行為にあたることを前提ないし最大の理由として救済内容を決定していることが明らかである。そうすると、救済内容を考慮するための前提等に誤りがあることになり、本件六月採用に関しては、中労委において改めて不当労働行為の成否及び救済方法について判断を示すべきこととなるから、中労委命令のうち、主文Ⅰ項の1ないし6及びⅡ項をいずれも取り消すべきである。

五  参加人らの乙事件の請求について

甲事件について、被控訴人らが本件四月採用に関して労組法七条による不当労働行為の責任を負わないことを理由に中労委命令が取り消される場合には、中労委命令は当然にその効力を失うことから、参加人らが本件四月採用に関する中労委命令の取消しを求めることによって、回復すべき権利又は法律上の利益も失われるというべきである。

したがって、参加人らの乙事件の請求は訴えの利益がない。

第六結論

以上によれば、被控訴人らの請求を認容し、参加人らの請求に係る訴えを却下した原判決は相当であり、その余の点を判断するまでもなく、中労委及び参加人らの本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥山興悦 裁判官 杉山正己 裁判官 沼田寛)

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